後編

ひなユイ小説後編です。

あぁ、もっと書きたいヒナゆい小説

「お前、練習戻んなくていいのかよ」

「今、休憩中です」

することも特にないので、ユイと俺は中庭に休んでいた。

いつもなんだかんだで、喧嘩するからこんな風に落ち着いて話すのは久しぶりかもしれない。


「にしたって、長いだろ？お前いつもこんなに休んでないじゃん」

「先輩、私の休憩時間……把握してるんですか？」


ユイが驚いたようにこちらをみている。


「してねーよ、馬鹿」

「んだとゴラァ！誰が馬鹿だもっぺん言ってみろぉ！」

「何度でも言ってやんよ！馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っばーか！」

「馬鹿って言うほうが馬鹿なんじゃっアホアホアホアホ、アーホ！」

うわ、なんで俺こんな馬鹿みたいないい争いしてるんだ。

こいつと音無は、多分もっと。

別の、話をしてて。

きっとユイだって、こんな風に声を荒げたりしなくて。


「うっせーな！音無のとこでも言って話聞いてもらえ、アホ！」

「なっ何」

「俺なんかと話してないで、優しい音無のトコ行けばって親切に諭してやってんだよ」


ユイは一瞬、目を見開くと鋭い平手打ちをかましてくる。

はじけるような音と同時に、静かな痛みが頬に走る。


「余計なお世話だ、ボケ」


あ、今。


「先輩の馬鹿！」


ユイを傷つけた。

とっさに腕を掴んで呼び止めようとする。
が、よそうに反してユイの足が速い。
伸ばした手が、空を切る。

「ユッ」

ユイを追って、走った。

全力を出せば、こちらの方が早い。

自分より少し前にユイが、建物の角を曲がる。

数十秒、遅れて後を追う。



「ユ…・・・イッ」


別に、なんてことのない風景。

目から涙を流したユイが、音無に縋り付いている。

縋り付いて、泣いている。


「ユイ？ど、どうしたんだお前」

「・・・・・・っう」

「日向、何かあったのか？ユイのヤツ急に泣き出して」



あぁ、そうだよ。自分で言ったんだろ。

音無の方に行けばいいって、自分で。

だけど。

--取られちゃうわよ？


「こっちこい」

「へっ」

「日向！？」


無理やり、音無から引き引き剥がす。

そして、自分のほうへ追いやる。


「悪い、音無ちょっと揉めた。ちゃんと話するからさ、こいつと二人にさせてくれよ」

「いいけど、ユイ……かなり首振ってるぞ？」

こいつ・・・・・・。


「いいのいいの、ほら！空気読んで行けって！」

「あ、あぁ」

＊


「なんですか？先輩、私の泣き顔拝みたいんですか？」

「違ーよ。何でお前そんな可愛くない発想すんだ」


ユイはまだ涙の滲む目でこちらを睨みつける。


「悪かったよ、さっきは」

「……先輩が謝るなんて気持ち悪い」

「お前、殴るぞ」


握り拳を作ってみせると、ユイがふっと笑った。

残っていた涙が零れ落ちる。


「嘘ですよ、嬉しいです」

「おっおぉ」

「先輩、私がさっき泣いたの気にしないでいいですから」


ユイがふにゃりと笑う。


「気にしないでください、別に先輩のせいで泣いたんじゃないんで

ちょっと、他のことでも精神的にきつくて」

「…・・・は？」


「ひさこ先輩に言われたんです……駄目だって」


ユイがゆっくりと間をおいて、絞り出すような声を出す。


「歌、駄目だって」

「…・・・っ」

「分かってますよ？私も、岩沢さんみたいに……歌えてないって」


ユイは相変わらず、笑顔で続ける。


「けど、言われるときついんですよね、やっぱり」


立ち上がると、まぶしそうに太陽を見上げる。


「あぁ、本当にまだまだなんだって、打ちのめされちゃう」


駄目っすよねぇ、とユイは言ってから、こちらを振り返った。


「だから、先輩のせいじゃないんです」

ユイは笑顔のまま、ぺこりとお辞儀をする。

尻尾もぴこりとゆれた。


「それじゃ、練習戻りまっす！」



「ユイ！」


「？」


「もし、また」

ユイがこちらをみたまま、首をかしげている。


「もしまた、落ち込むことがあったら。聞いてやるよ」


「へ？」


「俺が、だから……音無のトコ行かなくてもいいって言ってんだよ！馬鹿」


「…・・・先輩」


「何だよ」



「アホですね」



あぁ、そうかもしれない。

本当にアホかもしれない。

ようやく気が付いた、

俺は、きっと。多分…・・・こいつをー・・・・・・。